スポーツ団体とスポーツに関わる教育機関、スポーツ指導者に期待されること

子どもの権利の尊重と推進にコミットする

 

「子どもの権利条約」の趣旨をふまえ、子どもの権利の尊重と推進にコミットする。

具体的には、以下の普遍的な価値について賛同し、これを組織内外で共有する。

 

i. 常に子どもの最善の利益を考慮して行動する

 

子どもの最善の利益を、子どもに関するすべての行動の中で最も優先する。試合における勝利だけに価値があるという考え(勝利至上主義)は必ずしも子どもの最善の利益にはつながらないこと、また、生涯にわたる子どものスポーツへの参加を促進することにはならないことに留意する。

 

ii. 子どもの意見を尊重する

 

年齢、及び成熟度に配慮の上、子どもが、試合や練習への要望や不快感を含め、自分に影響を与えるすべての事項に自由に意見を述べることを尊重する。トップアスリートを目指す子ども、レジャー、レクリエーションとしてスポーツを楽しみたい子どもを含め、スポーツとの関わり方、楽しみ方に関する子どもの意見を尊重する。

 

iii. 子どもを差別しない

 

子どもやその保護者の性別、民族、出生、性的志向または自認、言語、宗教、文化、政治的意見その他の意見、国民的または社会的出身、障がい、経済的地位その他の地位その他いかなる理由によっても、子どもを差別しない。特に障がいのある子どもに対しては、スポーツ施設のユニバーサルデザイン化、スポーツ指導者等の適切な配置、誰もが参加できるルールや道具の導入等により、パラスポーツの機会の提供や、障がいのない子どもと一緒に楽しめるスポーツの採用に向けた取り組みを行う。

 

iv. 子どもをあらゆる形態の暴力やその他権利の侵害から守る

 

スポーツに関わる、子どもに対するあらゆる形態の暴力、虐待を撲滅し、その他子どもの権利に悪影響を与える問題に対処する。

 

v. スポーツを通じて子どもの権利を推進する

 

フェアプレー、チームワーク、他者の尊重等、スポーツの基本的価値を推進し、子どもの心身の健全で豊かさに充ちた成長を促進する。

スポーツを通じた子どものバランスのとれた成長に配慮する

 

子どもがスポーツ以外の安らぎ、家族とともに過ごす時間、レジャー、レクリエーションや学習とのバランスを通して、健全かつ包括的な個人としての成長を達成することを支援する。具体的には以下の視点に配慮し、団体、教育機関はその規模・性格・活動内容に応じた取り組みを検討する。

 

i. 子どものバランスのとれた成長を促進する

 

子どもが家族と過ごす時間を尊重し、家族生活への権利を保障する。子どもが自分の性格、才能、精神的および身体的能力を最大限発揮できるよう、その年齢に適した学びや遊び、スポーツ、レジャー、レクリエーション活動に十分な機会を与え、文化芸術活動に自由に参加できる環境を確保し、バランスのとれた成長を促進する。スポーツにおける誠実性・健全性・高潔性、フェアプレーとチームワークを推進し、教育の重要性、健康でバランスのとれた食事とライフスタイルの重要性、いじめを含むあらゆる形態の子どもへの暴力からの保護など、日常生活の中でバランスのとれた成長を促進するために必要な様々な情報を子どもと共有する。また、トップアスリートとして活躍できる期間は限られていることや、事故や故障により「スポーツ活動の機会」が絶たれる可能性が常に存在するなど、スポーツ選手のキャリアに関わるリスクと危険性に関する情報についても子どもに提供する。

 

ii. 子どもの学習・教育の機会を確保する

 

トップアスリートを目指す子どもを含め、スポーツを行うすべての子どもに充分な学習の機会・時間を与える。子どもが、スポーツ以外の分野の学習や生活に関し、適切な資格を持った専門家に相談できる機会を提供し、子どもが将来スポーツ以外の進路を選ぶこともできるようサポートする。

子どもをスポーツに関係したリスクから保護する

 

子どもをあらゆる形態の暴力や虐待などのリスクから保護するとともに、子どもが安全にスポーツを行える環境を確保する。具体的には、以下の視点に配慮し、団体、教育機関はその規模や活動内容に応じた取り組みを検討する。

 

i. 子どもを暴力や虐待などから保護する

 

スポーツの指導・練習・競技等のあらゆる過程において、あらゆる形態の身体的または精神的な暴力、虐待(性的虐待を含む)、過度なトレーニング、ハラスメント(セクシャル・ハラスメント、パワーハラスメント等)、いじめ、指導の放棄、無関心な扱い、不当な扱い、搾取、過剰な規律や制裁、人身売買を撲滅する。子どもから子どもに対して行われるもの、ネット上のものを含め、子どもに対する身体的、精神的な虐待、侮蔑的な言葉使いや扱いを禁止する。スポーツの指導・練習・競技における事故に関するデータを収集し、そのような結果を招いた要因を分析する。

 

ii. 子どもが適切な指導能力をもつ有資格者から指導を受けられるように努める

 

スポーツ指導・管理に関わる人材は、適切な資格を有し、トレーニングを行い、継続して専門的能力の向上に努めるとともに、それを支援する団体はその環境整備を進めるよう努める。

 

iii. 子どもが安全にスポーツを行うことができる環境を確保する

 

スポーツに関わる事故や怪我を予防し、身元調査が行われた人物のみがアクセス可能なスポーツ環境を提供する等、子どもが安心して練習や競技を行うことができる環境を確保する。子どもがスポーツをするために移動する際に、安全で質の高い移動手段、滞在施設、食事を子どもに提供する。

 

iv. 子どもが不正行為に関与することなくスポーツを行える環境を確保する

 

子どもが、名声や経済的利益等を誘因とする不正な勝利の追求行為(八百長、その他買収などの不正行為、勝敗に関わる意図的な操作)に関与することなくスポーツを行える環境を確保する。スポーツの大規模化、商業化に伴い、立場の弱い子どもが、成人に比べ、よりそのような不正行為に巻き込まれやすいことを十分認識し、子どもを取り巻く関係者(「アントラージュ」とも呼ばれるviii)の教育や規律維持を行うなどの配慮を行う。また、代表選手選出等については、公平性及び透明性に配慮し、決定権限を有するスポーツ指導者等に対して、特定の子どもを出場させるために経済的利益等が提供される行為等を防止するよう配慮する。

 

v. 子どもをあらゆる種類の搾取から守る

 

商業的、政治的、社会的なものを含むあらゆる形態の搾取から子どもを守る。

子どもの健康を守る

 

ドーピングから子どもを保護することを含め、子どもの身体的及び精神的な健康を守る。具体的には以下の視点に配慮し、団体、教育機関はその規模・性格・活動内容に応じた取り組みを検討する。

 

i. 子どもの身体的及び精神的な健康を守る

 

成長期にある子どもに対しては、年齢や成長に応じたスポーツの種類や運動強度、指導法に配慮する。スポーツ医・科学の見地から、過度なトレーニング、体の(一部の)使い過ぎ(オーバーユース)、バーンアウト等により子どもの心身の健康に負の影響を与えないよう配慮し、子どもをそのような状況に追い込むことは、虐待にもつながり得ることを認識する。必要に応じて関係者と連携し、組織内外でルール作り等に協力する。おとなの過度な期待に応える等のために、子どもが、その後の生涯に影響を及ぼす重篤な障害を負うリスクを顧みずに、進んで自らを酷使する傾向があることに鑑み、それに伴うリスクなどを適切に告知するなどの手段によって、子どもの冷静な判断を促す。また、子どもに過度なプレッシャーを与えることなくその判断を尊重する環境を整えるなど、子どもの心身の健康を実効的に守るために配慮する。子どもが、認定を受けたアスレティックトレーナーや医師、心身の健康に関する教育とカウンセリングを行う専門家に容易にアクセスできるようにする。

 

ii. ドーピングから子どもを保護し、栄養指導を提供する

 

スポーツ医・科学の見地から、子どもをあらゆるドーピングから守り、子どもの心身への短期的・長期的影響に配慮せずに、競技技術や能力の向上を目的とした栄養補助剤等を含む、いかなる物質も子どもに提供されることがないようにする。子どもをドーピングに追い込むことは、虐待にもつながり得ることを認識する。子どもや子どもを取り巻くスポーツ指導者、保護者等に対し、適切な栄養、健康的な食事、及び医薬品やサプリメントの適切な使用に関する、 資格をもった専門家からの教育の機会を提供する。特に体重管理が重視されるスポーツに固有のリスクを認識し、子どもに関わる関係者に、摂食障害があった場合にそれを見つけ、支援を求めるために必要な情報を提供する。

 

iii. 適切な生活習慣を構築する

 

1日24時間は、スポーツのためだけにあるのではないことに留意し、学習や教育、休息や睡眠に係る時間が適切に確保できるようバランスを意識し、スポーツに係る時間の設定を行い、適切な生活習慣を整える。

子どもの権利を守るためのガバナンス体制を整備する

 

スポーツ団体とスポーツに関わる教育機関は、本原則1~4に掲げる原則を効果的に実施するためのガバナンス体制を整備する。具体的には、各団体の規模・性格・活動内容に応じ、以下の措置を実施する。

 

i. 基本方針を策定・公表する

 

各団体の規模・性格・活動内容をふまえ、本原則1~4の内容にコミットするための方針(子どもだけでなく、プレーヤー全体を網羅したものも含む)を策定し、組織内外で公表する。

ii. リスクを確認・評価し、リスクの高さに応じた対応を行う

 

各団体の性格・活動内容に応じ、子どもの権利にどのような悪影響を与える問題が生じる可能性があるのかを把握し、そのリスクの高さに応じた措置を講ずる。

iii. ルール、ガイドライン、行動規範等を制定し、これを実施する

 

本原則1~4に掲げる子どもの権利の保護と推進に関する方針を実施するための具体的なルール、ガイドラインや行動規範を制定し、これをスポーツ指導者、スポーツ選手その他の関係者に適用する。

 

iv. モニタリングと継続的な改善を行う

 

スポーツの指導・練習・競技等の過程において、暴力行為、過度なトレーニング、オーバーユースその他の子どもの権利に悪影響を与える問題が生じていないか否かについて定期的にモニタリングを行う。モニタリングなどの結果をふまえ、子どもの権利の尊重と推進のための取組状況に関して継続的に見直しを行い改善する。

 

v. 相談・通報窓口を確保し問題を解決する

 

子どもが、暴力行為、過度なトレーニング、オーバーユースその他の子どもの権利に悪影響を与える問題に関して、秘密を保ったまま安全に相談できる窓口を確保し、子どもの権利について、また、懸念があった場合にどのように相談できるのかについて、子どもに情報を提供する。子どもの権利に悪影響を与え得る問題に関して、第三者または懸念を持った人が誰でも通報や相談ができる仕組みを確保する。相談・苦情を受け付けた場合には、子どもの最善の利益を最優先する形で、子どもがそのニーズに合った効果的な救済手段にアクセスできるようにし、子どもが意味のある形でその過程に関われるようにする。

子どもに関わるおとなの理解とエンゲージメント(対話)を推進する

 

スポーツ団体とスポーツに関わる教育機関は、本原則を効果的に実施するため、子どもを取り巻くすべての関係者への本原則の周知、関係者との対話を確保する。具体的には、団体の規模・性格・活動内容に応じ、以下の措置を実施する。

 

i. 子どもを支えるスポーツ指導者等の適切な人選・教育を行う

 

子どもを支えるすべての関係者(スポーツ指導者、教員、トレーナー、ボランティア等を含む)について、子どもの権利に悪影響を及ぼすことのないように、人選の基準に子どもの権利の尊重を含めること、また、過去の虐待の記録を確認すること等により、適切な基準に基づき採用や人選を行う。必要に応じて関係団体とも協力して、それら関係者による本原則の適切な理解、実施を促進するための定期的な教育・研修の機会を提供する。

 

ii. 対話を通じて組織内外の関係者の理解を促進する

 

団体内で子どもと関わるすべての関係者、および保護者、学校、成人アスリート等団体外の関係者を含め、子どもに関わる関係者間の、また子どもとの定期的な対話を通じ、それぞれの現場の実情をふまえ本原則に関わる事項について適切に対応するために、本原則の理解を促進する。子どもが問題、懸念、考えを共有できる安全な環境を提供する。

 

スポーツ団体を支援する企業・組織に期待されること

スポーツ団体等への支援の意思決定において子どもの権利を組み込む

 

企業・組織は、スポーツ団体への支援の可否の意思決定にあたって、本原則1~6に規定する子どもの権利の尊重と推進の確保に関する取組みの状況を考慮する。企業・組織は、必要に応じて、スポーツ団体への支援の条件として、本原則1~6の規定に従い、子どもの権利の尊重と推進の確保に関する取組みを実施することを表明させることも検討する。

支援先のスポーツ団体等に対して働きかけを行う

 

企業・組織は、支援するスポーツ団体に対し、当該スポーツ団体のリスクの高さに応じて、本原則1~6規定の子どもの権利の尊重と推進の確保のための取組状況に関して説明を求め、取組みが十分ではない場合にはこれを実施するように働きかけを行う。

成人アスリートとその組織団体に期待されること

関係者への働きかけと対話を行う

 

子どもはその脆弱な立場や周囲からの期待・重圧、また懸念を表す能力の発達度ゆえに、子どもの権利に悪影響を与える問題について声を上げにくい立場に置かれていることが多い。このことをふまえ、子ども時代からスポーツに深く関わり、過去に同様の経験を持つことの多い、また懸念を代弁、支援、共有する立場にある成人アスリート及びその組織団体は、子どもを支援するため、自らの経験をふまえ、以下のとおり、関係者に働きかけを行うことが期待される。

 

i. スポーツ団体に働きかけを行う

 

成人アスリート及びその組織団体は、その影響力の程度に応じ、スポーツ団体及びそれを支援する企業・組織との間で、自らの経験をふまえ、子どもの権利尊重・支援のあり方について対話を行い、本原則1~8に沿った取組みを実施するように働きかけを行う。

 

ii. 子どもとの対話を行う

 

成人アスリート及びその組織団体は、子どもが、暴力行為、過度なトレーニング、オーバーユースその他の子どもの権利に悪影響を与える問題について躊躇なく相談を行えるように、子ども及びその保護者に、可能かつ適切な範囲で、自らの経験を共有し、子どもがスポーツにおいて直面しうる問題に関する認識を高めるよう努める。

子どもの保護者に期待されること

スポーツを通じた子どもの健全な成長をサポートする

 

子どもに対し、物心両面の様々なサポートを提供し、スポーツの力を伝え、時にスポーツ団体の活動をサポートする等の重要な役割があることをふまえ、子どもの保護者は、以下のとおり、子どもの健全でバランスのとれた成長をサポートすることが期待される。

 

i. 子どもの健全でバランスの取れた成長に配慮する

 

保護者は、子どもの最も重要な支援者として、その役割の重要性を認識しつつ、子どもが潜在能力を発揮し、スポーツをしている時間を楽しむことができるよう、子どもがバランスの良いライフサイクルで過ごすことができるように十分配慮して、監護する。保護者は、スポーツとの関わり方、楽しみ方を親子で共有し、子どもがどのようなサポートを必要としているかに配慮し、過度な期待や関与等によって子どもに悪影響を与えないようにする。子どもは自らに負荷をかけすぎることもあり、子どもを守るために時におとなが限界を設定する必要があることも認識する。

 

ii. 関係者と対話し、子どもの保護のための取組みを行う

 

保護者の立場から、スポーツ団体等の関係者と対話しつつ、本原則1~4のうち関連事項について、その実施に取り組む。

 

iii. 子どもの権利に悪影響を与える問題の解決をサポートする

 

保護者は、子どもの権利に悪影響を与える問題が生じていないか否かを継続的に確認し、子どもから相談を受けた場合や自ら問題を発見した場合、子どもの最善の利益を最優先する形で、その問題の解決をサポートする。